ある対談(インスリン治療など)


 このホームページを見てインスリン治療について質問していただいた方がい ます。仮にAさんとさせていただきますが、インスリン治療に関する非常に大事 な内容を含んでいますので、Aさんの了解の上、2ー3回のメール交換の内容を 対談形式に再編集して皆さんに公開したいと思います。ご参考にしていただけれ ば幸いです。[平山純二]



【Aさん】
 はじめまして。私は、34才の男性です。去年(1995)の4月に糖尿病が発覚し て、2カ月の入院になりました。現在では、インスリン(12単位、1日1回)とベイ スン(朝、夕、2回)を投与しています。血糖コントロールの方は、朝(7:00AM)が113mg/dl 位で夕方(6:00PM)が95〜85mg/dlです。投与する単位の量の違いは有りますが、 一生、死ぬまでインスリンを使用することになると思います。
 それで、お聞きしたい事は・・・・ 「よくある疑問,質問」 に「今はヒト型インスリンですから,効きすぎた場合の低血糖症状以外,ほと んど副作用もありません。」とのべられていますが、現在市販しているインスリンの安全性と副作用についてお聞きしたいのです。最近、薬害エイズ問題などがマスコミなどに出ているので、インスリンも疑い たくなります。多分、私の疑心暗鬼とは思いますが・・・・・

【平山】
 こんにちは。「糖尿病サロン」ご訪問ありがとうございます。
 ご存じのように,現在のインスリンは全てヒト型です。以前はブタ、ウシの 膵臓から抽出していました。この場合はたしかに予期しない副作用があった可能 性も否定できませんね。今は全て完全な合成品です。もちろんヒトから抽出した 訳ではありません。ヒトのインスリンと同じ構造を遺伝子工学的に作ります。こ れはヒトインスリンの遺伝子情報を「無害な」大腸菌に入れてインスリンを合成 させています。大腸菌といってもびっくりしないで下さいよ(特に最近は大腸菌 と聞くだけでびくっとしますが )。もともと無害の大腸菌を使っており、製剤 になる前に取り除かれて純化されていますから,全く心配ないと断言してよいと思います。このへんのことは http://www.lilly.com/diabetes/faq/hummfg.html に(英語ですが)わかりやすく記載されています。一度見て下さい。
 ただ、ヒト型になったときには「これで副作用は全くなくなるはず」と思っ ていましたが、やはり稀に過敏症のような副作用がでることがあります。これは インスリンを溶かしている液の含有物によるものとも考えられています。

【Aさん】
 インスリンの副作用について、詳細な説明をありがとうこざいます。いろい ろと懸念したのですが、平山さんの説明で安心しました。
 私は入院して、初めの1週間ぐらいインスリンを投与せずに食事療法だけで 治療していましたが、時間が経過しても血糖値が下がらないので、インスリンを 投与する事になりました。 ちなみに・・・入院時の血糖値が415で・・・、生理 食塩水を24時間点滴して、252まで落としました。合併症はいっさい出ていない ようです。
 それで、インスリン療法をしてまもなく・・・ ある看護婦さんに「インスリンは一生物だから、ちゃんと覚えた方が良いよ 」と言われてしまって。その言葉が脳裏に焼き付いた様な感じでした。この、一言って・・・もう、死 ぬまでインスリンを手放す事は出来ないと言うことですよね?
 私は、それまで、一時的にインスリン療法をして,膵臓が元気になったらイ ンスリンを投与しなくて良いんだとばかり思っていましたので,その看護婦さん の一言が凄いショックでした。

【平山】
 医師を含めて医療スタッフのなにげない言葉が患者さんを傷つけていること も多いのでしょうね。あまり「この一言」は気にしないで良いと思います。この 看護婦さんもインスリン注射の正しい射ちかたを身につける重要性を言ったので あって、Aさんの病態を完全に理解した上での一言ではないと思いますよ。

【Aさん】
 主治医の先生の説明によると・・・インスリン療法をするのは、経口血糖降 下剤では膵臓に負担をさせるから,膵臓を休ませる意味でインスリンを使うよう な説明でしたから。

【平山】
 その通りです。インスリン注射を始めても必ず一生続けなければならないということはありま せんよ。私の経験でも,若い人で,やや肥満体質で,急に口渇が出て、そのためジュー ス、コーラなどを大量に飲み,血糖が400以上になり緊急入院し、24時間点滴 を必要となったような患者さんは、インスリンで結構順調に血糖値が改善し、イ ンスリンを完全に止めることすら可能になる確率が高いです。もし、Aさんも口 渇によるジュース飲み過ぎで発症されたようなタイプなら将来インスリン離脱も 期待できるかもしれません。

【Aさん】
 確かに私も口渇でジュースもよく飲んでいました。太り気味でもあります。 ちなみに私は身長168cm,体重72kgです。当時、運送の仕事をしていて、ずんぶ ん口渇、多尿に悩まされましたよ。首都高の渋滞にはまったときはトイレを我慢 するのに大変でした。あまり我慢も出来ずに渋滞の途中でトラックを路側帯に寄 せて、東京の下町を見おろしながらタチションしてしまいましたけれど・・・・( 笑)。このときほど、男に生まれて良かったと思たことは無いですよ(笑)。
麦茶も飲みましたが、ジュースもトラックに常時置いていました。私の好みは ミルクティーとかカルピスウォーターでしたけど。その影響で食欲が無くなって 、あまり食べないでいたら痩せてきました。本人には糖尿病なんて自覚も当時は 無かったですから,仕事の処理に追われて医者に診てもらうのが滞っていたんで すよ。

【平山】
 喉がかわいてジュースを飲むんだけれど、飲めば飲むほど口が渇いてきて「 そんなはずはない」と思いながらどんどん飲んで,どんどん血糖値が上がってい くというパターンが多いですね。

【Aさん】
 でも、口渇がひどくなると、不思議と甘い飲料水が欲しく成るんですよね。 何というか、あの、甘い味に中毒して、それを求めるような?・・・ここまでく ると、ペットボトルで買ってきて、それをラッパのみする状態です。トイレも、20 分に一回ぐらいのペースになりますよ。(笑)

【平山】
 1日にペットボトル何本もジュース,サイダーを飲んで急にひどい高血糖に なる病態で「1.5リットルペットボトル症候群」という「病名」もあるくらい ですよ。

【Aさん】
 それで、何人かに,「最近、急に痩せたみたい」,「医者に診てもらった方 が良いよ」なんて、言われてしまって。
 仕事が、暇になったときに診察してもらったら・・・・即、「あなたは、糖 尿病です、私もこんなに高い血糖値は見たことが無いよ」なんて言われまして、 そこの医師の指示どうり経口血糖降下剤を頂いて帰った次第です。さすがにショ ックで母親に告げると、母親の方も対処の仕方が解っているようで(実は母方の 祖母が糖尿病でインスリンも射っていたのです)、翌日違う入院設備のある病院 で診察を受けまして、即入院という感じでした。
 当時は糖尿病の知識が無かったのですが、入院中に糖尿病教室が有りまして ,糖尿病について多少教えて貰いました。

【平山】
 典型的は急性発症例ですね。でも糖尿病教室があるということは糖尿病にも 力を入れている病院だったんですね。入院して良かったと思いますよ。

【Aさん】 HbA1c

 ええ、他の糖尿病の患者さんにも入院を勧めたいですよ。食事療法はもとよ り,精神的なケアが出来ますからね。
 入院して血糖値も下がりましたが、ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)もす ぐに下がってきました(グラフ参照)。

【平山】
 ヘモグロビンエーワンシ−(HbA1c)はだいたい過去1ヶ月間の血糖コントロ ール状態がわかるのですよね。このグラフをみるとAさんは今もだいたい6%程 度を維持しており、かなり良いコントロール状態で来ていることがよくわかりま す。
【Aさん】
 ところで、普通の人と糖尿病の話題が出て、入院したことを告げると・・・ 必ずと言って良いほどインスリン注射の有無を質問されるんですよね。それから 、インスリン注射をしていることを告げると・・質問した側の認識が変貌するん ですよね。いかにも、不治の病にかかって短命のような感じで・・・・。でもこ ちらから、どの程度インスリン注射の知識が有るのか探ってみると、案外糖尿病 やインスリンの知識は無いようで・・。インスリンをゼロから説明するのに苦労 するんですよ。(笑)
 家族や知人に糖尿病患者がいて、インスリン療法を受けている人と接してい る人は良く理解してくれるのですが、それ以外の人の認識はまだ、末期癌とまで は行きませんが、それに近い認識のようです。

【平山】
 本当に一般の方のインスリンに対する知識にはまだまだですね。間違った知 識だけがひろまっており,困る場合もあります。患者さん本人にゼロから説明し てやっとインスリン注射に同意してもらっても、翌日「やっぱりいやです」とこ わばった顔で言われることが多いです。「なぜ?」と聞くと「昨日家に帰って家 族に(なんでそんなものするんや!一生やめられないぞ!)とひどくしかられた から」と...まるで麻薬にでも手を出すような認識....(^^;)

【Aさん】
 なんだか、悲しい話ですよね・・・・。仮にも、インスリンは人間の持って いる純粋なホルモンですから・・・。でも、ご本人さんが一番かわいそうですよ ね。
 私の場合は、心の中で格闘も有りましたが,主治医からインスリン療法の説 明を受けて主治医も私の病状にベストな治療法を選択したんだろうと思い,イン スリン治療を開始しました。

【平山】
 Aさんは適切なインスリン療法を行い、今コントロールもすごく良い状態を 保っています。今はインスリンが最善の治療法と思いますが、将来インスリンを 止められる可能性もあります。これからもこの調子でがんばってください。あり がとうございました。




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